本当の宝物

 

あの日から僕らは違う道を歩き出した

君に相応しい男になるため

夢を掴もうと

 

君には照れくさくて

『夢を追いかける』としか言わなかったけど

 

愛より夢を選んだことを

君は責めなかったね

優しく微笑んで『そっか』と言っただけだった

 

でも後で窓から部屋を覗くと

君は泣いていたね

僕があげたクマのぬいぐるみを

ギュッと抱きしめて

 

『いつか夢を叶えたらまた逢おう』

声にせずに心の中でそう言うと

僕は君に背を向けて歩き出した

 

君の涙が染み込んで

重くなったクマのぬいぐるみ

 

プラスチックの目に涙が落ちて

泣いているみたい

僕の代わりに泣いているのかな

 

 

あの日から僕は

ずっと走り続けていた

 

君より優先してまで選んだ夢

なにがなんでも叶えようと

 

そして手にした夢は

想像していたよりも大きくて

僕には持ちきれなかった

 

持てる大きさまで削り取った夢は

想像していたよりも小さくて

僕には物足りなかった

 

それでも夢を叶えたんだと

君に伝えに行こうと

前にあげたクマのぬいぐるみより

さらに大きなぬいぐるみを買って

君の家に向かった

 

しかし窓から部屋を覗くと

君は僕の知らない誰かと笑っていた

 

しばらく見つめた後

気付かれないように

僕は君に背を向けて歩き出した

 

君が欲しかったのは

大きなぬいぐるみではなく

そばに居てくれる誰かだった

大きさも持ち物も関係なかった

 

涙で重くなったクマのぬいぐるみ

僕と一緒に泣いてくれた

 

 

 

 

 

 

 

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